◆ 否認事件と示談(交渉)を同時並行で進める際に、必ず守らねばならないこと

前回のコラムで、否認事件と示談(交渉)の両立について、少し触れさせていただきました。

私が、否認事件と示談(交渉)を同時並行で進める際に、必ず守っていること、というより、守らねばならないことが一つあります。

それは、
「依頼者(被疑者、被告人)が否認していることを、被害者の方(ときには検察官や裁判所)に、ことさらに隠してはならない」
ということです。

一般的には、犯罪の否認と示談(交渉)は両立し得ないことが多いことは、前回の最初に触れた通りです。否認していることを被害者の方にことさらに隠す、あるいは、否認していることと示談(交渉)を行っていることが、理屈的にも心情的にもどう整合するのかを、きちんと説明をしないまま示談(交渉)を進めると、被害者の方は、当然、納得がいきません。弁護士倫理上も、大いに問題があると思われます。

その点は措(お)くとしても、場当たり的に示談(交渉)に着手すると、有罪認定の理由の一つとして扱われてしまうなど、それこそ間違った方向に進みかねません。

◆ 示談(交渉)は被害者の方のために行うもの

被害者の方に、依頼者が否認していることをありのまま伝えて、示談を断られるケースはもちろんあります。その場合は、示談交渉は、基本的にはそれで終了です。

詳しくは次回に述べますが、基本的には、示談(交渉)は被害者の方のために行うものです。

私が、否認事件と示談(交渉)を同時並行で進める場合でも、それは変わりませんし、変わることがあってはならないと考えます。弁護士は、ときには被害者側の代理人として動く立場であり、どちらの側に立って動くかによって、やっている弁護活動が180度異なるようであれば、弁護士に対する社会的責任や信頼を果たしているとは言えないでしょう。

何よりも、示談は、被害者の方が、十分に納得がいってはじめて成立するものであり、弁護士が間に入ることは、そのきっかけに過ぎないことに留意する必要があります。

(次回コラム「被害者の方の立場を考えること~依頼者側の弁護士の職責~」に続きます。)