A2.新所有者に対して保証金の返還請求はできない

賃借人は、建物明渡し後、賃貸人(たる所有者)に対して、保証金返還特約に基づき、差し入れた保証金(の一部)を返還請求できるのが一般ですが、競売手続によって賃借物件が売却された場合、新所有者は、旧所有者の賃貸人たる地位を承継いたしません。

したがって、残念ながら、ご相談の事例の場合、新所有者に対して、保証金の返還請求を行使することはできないことになります。

A3.スケルトンの状態に戻す必要性については大いに疑問

本来であれば、御社は、スケルトンの状態で借りていた物件を、もとのスケルトンの状態に戻した上で、賃貸人に返却する義務を負っています。これは、賃借人が、賃貸人に対して、「原状回復義務」(民法616条、598条参照)を負っているからです。

しかしながら、御社(=賃借人)が「原状回復義務」を負っているのは、前所有者(=賃貸人)に対してであり、新所有者に対してではありません。このことは、御社が、新所有者に対して、保証金返還請求権を主張できないのと同じ理屈です。

すなわち、前述した通り、御社(=賃借人)が、新所有者に対して、保証金返還請求権を主張できないのは、新所有者が、前所有者(=賃貸人)の、賃貸人たる地位を承継しないからであり、このこととパラレルに解するのであれば、御社は、新所有者に対しては、「原状回復義務」を負っていないことになります。(※「明渡し義務」と「原状回復義務」とはまた別です)

実質的にみても、保証金が戻ってこないにもかかわらず、原状回復義務だけ果たさなければならない、というのは、当職としても、大いに疑問です。

私見になりますが、御社としては、「机・黒板など、御社が引越し先でも使う備品を持ち出せば、それで十分(鍵は要返却)」だと存じます。