逆に言えば、その危険が予測できたとしても、それが数時間後という状況では「急迫」とはいえません。例えば、あなたを明日襲うことを計画している輩がいることに気づいたあなたが、「やられる前にやろう」と先に攻撃をしかけても、正当防衛は成立しません。これは一見不当とも思えますが、法治国家の下では私人(※1)の実力行使は例外的にしか認められるべきでない以上、仕方ありません。つまり、危ない目にあいそうだったら自分でなんとかしようとせず、警察に行きましょう、ということです(実際、「急迫…とは公的機関に保護を求める時間的余裕がないほどに緊急な場合を意味するものと解すべき」と述べている下級審判例(高知地判昭和51.3.31)もあります)。

2.不正の侵害

「不正の侵害」とは、実質的に違法な侵害を意味します。従って、刑法上の犯罪にはあたらない行為(例えば、過失による器物損壊)であっても、法益を侵害する行為であれば、これにあたります。

議論があるのが、人以外の物(ペット等)からの危害も「不正の侵害」と評価できるかどうかです。古い判例ですが、他人の家の番犬が自己の猟犬を噛み伏せてきたため、やむを得ず、その番犬を撃ったという事例では正当防衛ではなく緊急避難(刑法37条)の成立を認めたものがあります(大判昭和12.11.6判決全集4輯1151頁)。

3.自己または他人の権利

「権利」と規定されていますが、法律上保護に値する利益であれば足ります(福岡高判昭和60.7.8刑月17巻7=8号635頁)。裁判例には妻を連れ出そうとした浮気相手を殺害した事件で「住居を共にして性的生活を共同にする等の利益」を、ここにいう「権利」にあたるとして、過剰防衛の成立を認めたものもあります(福岡高判昭和55.7.24判時999号129頁)。

4.防衛するため

「防衛するため」の行為といえるには、その行為に防衛の効果があり、かつ防衛の意思をもってそれを行ったといえなくてはなりません。つまり、ムカついて殴った相手が気絶したところ、その相手は実は自分を襲う気だった…という場合に正当防衛は成立しません。

また、「攻撃を受けたのに乗じて積極的に加害行為に出たなどの特別の事情」がある場合にも、防衛の意思は認められないと判示しています(最判昭和46.11.16刑集25巻8号996頁)。

もっとも、「防衛の意思と攻撃の意思とが並存している場合の行為は、防衛の意思を欠くものではない…」(最判昭和50.11.28刑集29巻10号983頁)とも判例は述べていますから、基本的には正当防衛状況であることを認識しているのであれば「積極的な加害意思」がない限り、「防衛するため」の行為と認められます。