5.やむを得ずした行為

判例は、「やむを得ずにした行為」の意味を「反撃行為が、自己または他人の権利を防衛する手段として必要最低限度のものであること、すなわち反撃行為が侵害に対する防衛手段として相当性を有するものであること」と解しています(最判昭和44.12.4刑集23巻12号1573頁)。従って、「防衛手段として相当性を有するものであること」=「やむを得ずにした行為」といえます。

では、「相当性」はどのようにして決まるのでしょう。上記の昭和44年の判例は続けて「…その反撃行為により生じた結果がたまたま侵害されようとした法益より大であっても、その反撃行為が正当防衛でなくなるものではない…」と述べています。つまり、生じた結果ではなく、侵害行為と防衛行為の行為態様の危険性を比較して判断するとしています。

そして、そのさいには両者の年齢・体格・武器の有無等の具体的事情を考慮して判断します。例えば、被害者が素手なのに対し、こちらが菜切り包丁を取り出して腰に構えたような場合であっても、被害者が若く屈強な体格である一方、こちらが年を取っていて貧弱であり、また、単に防御的な行動に終始しているような場合には「相当性」が認められます(最判平元.11.13刑集43巻10号823頁)。

(※1) 国家または公共的な地位を離れた一個人のこと。

参考文献
山口厚 (2016年) 「刑法総論(第3版)」
前田雅英 (2015年) 「刑法総論講義(第6版)」
山口厚・佐伯仁志 (2014年) 「刑法判例百選Ⅰ総論(第7版)」
今井猛嘉・小林憲太郎・島田聡一郎・橋爪隆  (2012年) 「刑法総論(第2版)」
小林憲太郎 (2014年) 「刑法総論」
小林憲太郎 (2015年) 「重要判例集 刑法総論」