量的過剰

急迫不正の侵害が終わったにもかかわらず、そのまま防衛行為を続けた場合を量的過剰防衛といいます。

この場合に過剰防衛が成立するかは議論があります。なぜなら、もはや侵害が終わっている以上、急迫不正の侵害に対する反撃行為とはいえないのだから、防衛とは呼べないとも思えるからです。

判例は「被告人が被害者に対して加えた暴行は、急迫不正の侵害に対する一連一体のものであり、同一の防衛の意思に基づく1個の行為と認めることができるから、全体的に考察して1個の過剰防衛として傷害罪の成立を認めるのが相当…」(最決平成21年2月24日刑集63巻2号1頁)と述べており、侵害現在時・侵害終了後の複数の反撃行為を『一連の反撃行為』と捉えることができる場合には、それらを全体として評価して、36条2項の適用を認めています。

では、どのような場合に『一連の反撃行為』と捉えられるのでしょうか。おそらく、複数の行為は時間的にも場所的に近いところで行われていなくてはいけません。加えて、上記の判決文から考えると「同一の防衛の意思に基づく」行為といえなくてはいけないのでしょう。

つまり、どんなに場所的時間的に近接していても、最初の反撃行為とは異なる意思で行為に出たとされる場合には『一連の反撃行為』とはいえず、過剰防衛とはなりません(過剰防衛を否定した最近の判例は「両暴行は、時間的、場所的には連続しているものの、甲による侵害の継続性及び被告人の防衛の意思の有無という点で、明らかに性質を異にし…その間には断絶があるというべきであって、急迫不正の侵害に対して反撃を継続するうちに、その反撃が量的に過剰になったものとは認められない」(最決平成20年6月25日刑集62巻6号 1859頁)と判示しており、行為者がどういう意図で反撃行為に出たかを詳しく認定しています)。

参考文献
山口厚 (2016年) 「刑法総論(第3版)」
前田雅英 (2015年) 「刑法総論講義(第6版)」
山口厚・佐伯仁志 (2014年) 「刑法判例百選Ⅰ総論(第7版)」
西田典之・山口厚・佐伯仁志 (2013年) 「判例刑法総論(第6版)」
今井猛嘉・小林憲太郎・島田聡一郎・橋爪隆  (2012年) 「刑法総論(第2版)」
小林憲太郎 (2014年) 「刑法総論」
小林憲太郎 (2015年) 「重要判例集 刑法総論」
植田 博 (2010年) 「量的過剰防衛の周辺問題」 修道法学33巻1号55頁
朝日新聞 「トラブル相手を車でひく、被告に無罪「正当防衛が成立」
2016年9月16日 http://www.asahi.com/articles/ASJ9J5W3XJ9JUTIL04F.html