デッドロック状態になった場合の解散判決の請求は、上記の会社法833条1項1号の典型例とされています(江頭憲治郎「株式会社法」第四版915頁参考)。

もっとも、上記条文に、「業務の執行において著しく困難な状況に至り」「当該株式会社に回復することが出来ない損害が生じ(または生ずるおそれがあるとき)」と記載されているように、現実として(例えば会社の運営実務を担う役員により)会社の業務が支障なく行われている限り、基本的には解散判決が認められることはありません。

会社の業務執行そのものが不能でない場合に、会社の解散判決の請求が認められた例も、少ないですが存在します。

東京高裁平成12年2月23日判決では、問題となった会社(有限会社)で、一応は代表者である兄による経営が続けられていたケースで、兄弟である2人の社員兼役員の対立解消が著しく困難なこと等を重視して、解散判決の請求を認めました。

同判決の判例評釈(金融商事判例研究1104号50頁以下、執筆・西川昭日本大学教授)では、「ここ(解散判決請求制度)では、対立解消の可能性の有無に関する事実認定が決め手となる。」とされており、状況によっては、解散判決の請求が認められる場合もあるでしょう。

ただ、株式会社であれば、法定または定款に定めた任期を過ぎれば、定足要件を充足する限りは取締役の地位は無くなり(※代表取締役である取締役は、単独等の場合、後任の代表取締役が選任されるまで代表取締役としての権利義務を引き続き有します。会社法351条1項。)、代表取締役単独で業務執行が可能になるなど、有限会社(基本的に役員の任期はありません)とは異なる事情もありますので、即断は禁物です。

デッドロック状態になった場合でも、会社の実権を握ることが出来る方の人物はまだ良いのですが、実権を握ることが出来なかった方の人物は、個々の株主には株主総会決議前の配当請求権は認められていないなど、非常に難しい立場に立たされることになります。そのため、(事前の役員報酬の取り決めがあれば)役員報酬の支払請求、(実権を握る側の重大な違法行為等が発見されれば)取締役解任請求など、会社法上の様々な方法を駆使して、実権を奪い返すか、訴訟や交渉の過程で自己の株式を買取って貰う途を模索していくことが、まずは現実的な選択肢となるでしょう。