A. 学費の返還義務について、難しい案件ですが、学費の返還義務は発生しないと解する「べき」と考えます。

少なくとも、主観的には、父親と相談者との間で、貸付契約(大学費用立替契約)が成立しているため、返還義務がないことを、法的な構成としてどのように主張するのか、という点が問題となり得ますが、本質的には、大学の費用が「養育費」に含まれるかどうかの問題であると存じますので、その点について、回答させていただきます。

かつて、親の養育費の支払の終期は、18歳・高校卒業時・成人に達するまで、などとされるのが一般的でした。しかし、近年は、男女を問わず、4年制大学への進学率が相当に高まっており、また、大卒者と非大卒者との間で、就職や給料等の場面において大きな差が出ていることも事実です。

そこで、最近では、一律に大学費用を「養育費」から除外するのではなく、

「子が4年制大学に進学した上、勉学を優先し、その反面として学費や生活費が不足することを余儀なくされる場合に、学費や生活費の不足をどのように解消・軽減すべきかに関して、親子間で扶養義務の分担の割合、すなわち、扶養の程度又は方法を協議するに当たっては、上記のような不足が生じた経緯、不足する額、奨学金の種類、額及び受領方法、子のアルバイトによる収入の有無及び金額、子が大学教育を受けるについての子自身の意向及び親の意向、親の資力、さらに、本件のように親が離婚していた場合には親自身の再婚の有無、その家族の状況その他諸般の事情を考慮すべきである」

として(平成22年7月30日東京高等裁判所決定)、 具体的事情に応じて、決するべきである、と、裁判所も、徐々に姿勢を変えてきております(平成12年12月5日東京高等裁判所決定等も同旨)。

本件の場合、他の兄妹の学費は父親が負担していること、右事実からして、父親には、現実に大学費用を負担する資力があったと思われること、在学中、奨学金もバイトも禁止されていたこと、などから、して、養育費の全部ないし一部を、実質的に父親に負担させる判断がなされる余地はあると思います。

確かに、父親と相談者との間で、貸付契約(大学費用立替契約)が取り交わされてること等からして、敗訴の可能性は否定できません。

しかしながら、性的虐待や暴力の虐待、宗教活動の強制等、関連事情も含めて考えると、父親が、親の権威を傘に、相談者に無理を強いていたことは、容易に推察できます。

全ての事情を総合すると、相談者の学費の返還義務は発生しないと解する「べき」でしょう。