2.合意解除も認められにくいこと

「同年8月、再度Bより内金20万円入金の督促があり、まだ用意できない旨を伝えたところ、Bより、「このまま入金がない場合、他のお客様にも当該衣装を流します」と言われ、内金を支払っていなかったため、止む無く承諾しました。」
という点が、「無料のキャンセル処理」(合意解除)と言えるのか、については、少なくとも、Bが実際に衣装を流さない限り、合意解除は認められにくいように思えます。

民法上、履行遅滞による契約解除の場合には、履行の催告だけでなく、別途、解除の意思表示を要求しています。
Bの言動を解釈・評価するにあたっては、そのことを念頭に置いておく必要があります。

「他のお客様にも当該衣装を流します」とのBの発言から、
現実に他の顧客に衣装を流した際に、Bと相談者との間のレンタル契約を解除する、
という解釈を導き出す余地はあるものの、
そこからさらに、
実際に他の顧客に衣装を流さない段階でも、直ちにレンタル契約を無料でキャンセル処理する解除する、
とまで言えるか、については躊躇を覚えます。

また、規約書や契約書に従えば、Bから相談者に対して、キャンセル代金の請求をし得た、ということですが、他の顧客から衣装料金(内金)も取らず、しかも、甲からキャンセル代金も取らないまま、無料のキャンセル処理(合意解除)だけを認めるというのは、現実に半年間、取り置いていたこと等を勘案すると、Bにとって、合意解除する経済的メリットは乏しいように思えます。

Bの事情からすると、むしろ、合意解除する意思まではなかった、と解釈する方が、素直なように思えます。

このように、レンタル契約の不成立や合意解除を理由として、少なくとも、Bからの全額の支払を拒否することは困難と思われます。

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