2 ご指摘の証拠だけで不動産業者が「知っていた」といえるかは疑問

ところで、
「被告(売主)担当の不動産業者の営業担当者が、この方と共にこの補修について見ていかれました」
との記載が答弁書にあったとのことですが、
本件で、説明義務違反を問えるだけの不動産業者の既知(「知っていた」)を導くためには、
「ベランダ外壁サイディングの破損」や「応急措置」のみならず、「内部木部が雨水浸入によりすべて腐蝕していたこと」まで知っていたことの立証を求められる可能性があります。

「外壁を応急処置していた事実」だけでは、元の破損が重大なもので、近いうちに再度の補修(費用)が必要になるかどうかまでが直ちに判断しにくい可能性があるからです。

外見を確認して内部木部の腐食が分かるような状態だったかどうかはご質問内容からは分かりかねますが、「応急措置」が一応なされているとのことからすると、否定的な印象を受けます。

また、答弁書で「仲介業者は応急処置を予め知っていました」とも回答があったこと自体は有利な証拠といえますが、答弁書それ自体は、尋問調書や陳述書、確認書などの証拠と異なり、主張のため用いられる書類に過ぎません。

また、肝心な部分の具体性が乏しいので、証拠力はそれほど高くない印象を受けます。

一方で、不動産業者が「知っていた」ことを真っ向から否定しており、当然、証拠力や信用性は大きく問題になります。

売主側と不動産業者との具体的なやり取り等から、「内部木部の腐食を知っていた」と判断される場合もありますが、上記の理由により、答弁書だけでは立証に疑問が残ります。

3 仲介業者には、物的な性状については、専門的調査や鑑定能力は要求されない

不動産業者が、「当該事実を知らなかった」と判断された場合、次に仲介業者の調査義務(違反ないし認識可能性)が問題となります。

仲介業者の同義務のうち、物的な性状については、通常の注意をもって現状を確認し、その状態を説明すれば足り、取引対象不動産の(隠れた)瑕疵に関する専門家的調査や鑑定能力まで要求することはできないとされています。(大阪高裁平成7.11.21判決、東京地裁平成20年5月20日判決等)

仲介業者は、「応急措置」に気が付いたからといって、直ちに外壁の裏側の「内部木部の腐食」まで調査する義務がある訳ではありません。

売主側と不動産業者との具体的なやり取り等の情況証拠から、「(知らないまでも)内部木部の腐食を知ることができた」と判断される場合もありますが、上記の点には留意が必要です。

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