保全の必要性

取締役の職務執行停止の仮処分は、対象となる取締役のその地位が存在しないとする「仮の地位を定める仮処分」にあたります。「仮の地位を定める仮処分」における保全の必要性とは、保全処分を求める者が、著しい損害を蒙り、または急迫の危険に直面していることをいいます(民事保全法23条2項)。

特に取締役の職務執行停止の仮処分の場合には、申立人が誰であれ、「会社の経済的損害」がまずは問題とされますので、

①会社の信用が従前の代表取締役個人の信用に基礎づけられていて、仮処分の対象とされている現在の取締役では対外的信用が失墜するおそれがある場合
②仮処分の対象とされている現在の取締役に経営能力がない場合
③仮処分の対象とされている現在の取締役が会社の重要な財産を私的に流用するおそれがある場合

などが一般的な要件とされています(「類型別会社訴訟II(第三版)」東京地方裁判所商事研究会p.879-880)。

取締役の職務執行停止の仮処分のその後

仮処分が発令されると、対象となる取締役は取締役としての地位を失い、その後の職務執行は無効なものとなります。そして、この無効は取引相手などの第三者に対しても及びます。この発令によって、会社の損害発生や拡大は相当程度防ぐことができたといえるでしょう。

なお、会社としては発令の対象となった人数分の取締役を欠くことで不都合が生じる場合があります。そのため、取締役の職務執行停止の仮処分に併せて、職務代行者選任の仮処分を同時に申立てることが実務的には多いです。

まとめ

以上の流れをまとめると、職務執行停止の仮処分を求める事ができる場合は、「一定の訴訟の提起を前提として、その訴訟の結果をまたずに取締役の職務を停止させなければ、会社に被害が生じるおそれがあるとき」という組み立てになっています。

次回以降では、取締役の職務執行停止の仮処分の申立てについて、注意点等を交えて具体的に検討したいと思います。