事例紹介
遺産分割はどのようにすれば良いですか?
相続のことについての相談です。
母の遺産の相続を認知症の父と姉妹3人の4人で分けることになりました。 遺産分割をすすめるには、どのようにしたらよいのでしょうか。
Q1.遺産分割をすすめるには、どのようにしたらよいのでしょうか。
A1.相続人の一人が、認知症(≒行為能力を欠いている)であれば、 そのままでは遺産分割協議をすることはできず、行為能力を欠く相続人の代わりに遺産分割協議に参加する人物を選定する必要があります。
最もポピュラーな方法は、行為能力を欠く相続人に成年後見人を選任することであり、成年後見人が、被成年後見人に代わって、遺産分割協議に参加することになります。
したがって、ご相談のケースでは、まずは御父上に成年後見人を選任することを検討されると良いでしょう。
相続人が成年後見人の場合は遺産分割協議に参加できない
ところで、成年後見人は親族の方でも就任することができます。実際、統計上、親族の方が成年後見人に就任するのが一番多いケースです。(最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況-平成23年1月~12月-」より)
もっとも、相続人が成年後見人の場合(ご相談の事案では、相談者やその姉妹が成年後見人に就任した場合)、当該相続人が成年後見人として、亡くなられた御母上の遺産分割協議に参加することはできません。
法律上、成年後見人と成年被後見人は、利益が対立する関係にあるからです。
したがって、遺産分割協議を進めるために成年後見の申立を行う場合、成年後見人に弁護士等の専門家に就任してもらうことが選択肢として浮上してくることになります。
Q2.弁護士に成年後見人に就任してもらうと、費用はどの程度かかるのでしょうか。
A2.めやすは、月額2万円から6万円です。(訴訟や遺産分割調停など、特定の事務や特別の後見事務を行った場合は、別途の付加報酬が出される場合がございます)
上記の回答をした場合に多くの方が疑問にもたれるのは、「弁護士を成年後見人にすると、費用はどうなるの??」という点だと思われますので、ここでは、その点をもう少し突っ込んで解説したいと思います。
なお、本項でいう「費用」は、弁護士が成年後見人に就任した後の費用であり、実際には申立費用が別途かかりますのでご注意下さい。
まず、誤解のないように最初に説明させていただくと、どなたかが後見人に就任した場合、当該後見人が、家庭裁判所に対して報酬付与の申立を行うと、被後見人の財産の多寡・業務の多寡等に応じ、家庭裁判所は、当該後見人に対して、
一定額の報酬を付与する決定を行います。
これは、
- ・家庭裁判所が決めるもの
- ・被後見人の財産から支払われるもの
- ・後見人一般に認められるもの
であり、成年後見人に認められる報酬は、弁護士が成年後見人に就任した場合にだけ認められるものではありません。
他の専門職であっても認められますし、親族が後見人に就任する場合でも認められます。(実際、親族の方でも、後見人報酬を請求する方はおられます)
また、上述した通り、当該後見人が独断で決められるものでもありませんし、申立をした親族が負担することもないのですが、成年後見の申立費用(弁護士費用は依頼した弁護士と協議の上決め、負担は申立人)と成年後見就任後の費用(弁護士費用(報酬)は家裁が決め、負担は被後見人)とごっちゃになってしまったり、自分の財布と親族の財布とごっちゃになってしまったりするせいか、誤解してしまう方が少なくない印象を受けます。
以上を前提に解説すると、多くの家裁では、運用上、弁護士などの専門職が成年後見人に選任された場合の基本報酬の目安を定めております。
例えば、平成23年1月4日付「成年後見人等の報酬のめやす」(大阪家庭裁判所後見係)によると、成年後見人(専門職の場合)の基本報酬は、
- ・月額2万円
- ・管理財産額が1000万円超の場合→月額3~4万円
- ・管理財産額が5000万円超の場合→月額5~6万円
となっており、事案の内容に応じ、「基本報酬額の50%の範囲内で加算した額を基本報酬額とすることがあります」とされています。また、訴訟や遺産分割調停など、特定の事務や特別の後見事務を行った場合は、別途の付加報酬が出される場合があります。
Q3.弁護士を成年後見人に付ける以外に遺産分割協議を進める方法はないの?
A3.上記の弁護士に成年後見人に就任してもらった場合以外にも、遺産分割を進めるための方法はいくつか存在します。
ここでは、下記の2通りの方法を紹介いたします。
- ①親族(他の相続人)を成年後見人、弁護士を成年後見監督人とする方法
- ②親族(他の相続人)を成年後見人とし、遺産分割協議のため、弁護士を特別代理人に選任する方法
①親族(他の相続人)を成年後見人、弁護士を成年後見監督人とする方法
上述した通り、親族(他の相続人)を成年後見人としてしまうと、そのままでは遺産分割協議を進めることはできません。
もっとも、弁護士を成年後見監督人として選任しておくことで対処が可能になります。成年後見人と被成年後見人の利害が対立する場合は、成年後見人ではなく、成年後見監督人が被成年後見人に代わって、代理権を行使することになるからです。
ちなみに、成年後見監督人の基本報酬は、成年後見人の2分の1程度とされることが多いようです(※付加報酬は除きます)。
したがって、弁護士を成年後見人とした場合の基本報酬が気になる場合は、成年後見監督人の利用を検討するのも良いでしょう。
②親族(他の相続人)を成年後見人とし、遺産分割協議のため、弁護士を特別代理人に選任する方法
これまで説明した以上に、弁護士等の専門家の関与を減らしつつ、遺産分割協議を進める方法として、親族(他の相続人)を成年後見人としつつ、遺産分割協議のため、弁護士を特別代理人に選任する方法もあります。
これは、成年後見人や成年後見監督人のように、弁護士等の専門家に継続的に関与してもらうケースと異なり、遺産分割協議のみを対象として、いわばスポット的に手続に関与してもらう方法です。
特別代理人の報酬(事件終了後、家裁が金額を決めます)は念頭に置いておく必要がありますが、この方法だと、弁護士等の専門家に支払われる基本報酬を考慮する必要がありませんので、これまで説明した方法以上に、支出は抑えやすいと思われます。
成年後見人に支払われる基本報酬がどうしても気になる場合は、このようなやり方もあります。
ただし、繰り返しますが、成年後見人に支払われる報酬は、親族(例えば実の娘)が就任した場合も発生し得ますので、ご注意下さい。
Q4.結局、どの方法が一番良いの?
A4.どれが良いかはケースバイケース。
例えば、親族間で過去も現在も何の揉め事もなく、法定相続分通りに各自遺産分割することが事実上決まっており、成年被後見人を今後面倒を見ていく人(成年後見人)も事実上決まっていて、更には将来も親族間で揉めることはないと見込まれるケースでは、弁護士等の専門家が関与する度合いは低くても良いと思われます。
もっとも、
- ・相続人間の仲が悪い(または疎遠)
- ・成年被後見人の面倒を見ていく人が決まらない
- ・財産が多額等の理由により、将来揉める可能性を否定できない
など、現実には様々なケースがあり、今まで説明した方法のうち、どれが良いかはまさにケースバイケースです。特に相続人間で深刻な対立があるような場合、家裁は申立をした相続人が推薦する候補者をそのまま成年後見人とすることはまずありませんので、注意が必要です。
実際にどの方法を選択するかは、きちんと弁護士等の専門家に相談した上で決めた方が良いでしょう。
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