事例紹介
取締役の職務執行停止 ~被保全権利とその疎明~
今回は、取締役の職務執行停止の被保全権利を中心に解説します。取締役の職務執行停止の仮処分の被保全権利の内容は、前回解説しましたように、以下の様な取締役の地位にかかる訴訟の請求権となります。
①株主総会の取締役選任決議の不存在・無効確認・取消しの訴え(会社法830条・831条)
②取締役解任の訴え(会社法854条)
③代表取締役決議の取締役会決議の不存在・無効確認の訴え
④取締役の地位不存在の訴え
⑤設立無効の訴え(会社法828条1項1号)
※なお、取締役の職務執行停止の仮処分と類似した、「違法行為差し止めの訴え」というものがありますが、職務執行停止の仮処分は取締役の職務全般を停止させるのに対し、違法行為差し止めの訴えは特定の職務行為のみを差し止めるものですので、その請求権は被保全権利とはなりません。
或いは、実務上、紛争として取り上げられやすい株主権の帰属に関わる本訴(株主権確認請求・株主名簿書換請求など)も被保全権利にはなりませんので、注意が必要です。
取締役の職務執行等の仮処分は、認められた場合の効果の強力さに目を奪われてつい飛び付きたくなりますが、被保全権利が無い場合は、いくら申立人の立場の正当性(自分が過半数株主である、など)を裁判所に訴えたところで門前払いを受けることになりますので、この要件を見落とさないように注意が必要です。
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