事例・コラム
株主総会における委任状の取り扱いについて①
1.株主総会における委任状の会社法上の位置付けとその実質的意義
(1)
会社法310条1項本文は、「株主は、代理人によってその議決権を行使することができる。この場合においては、当該株主又は代理人は、代理権を証明する書面を株式会社に提出しなければならない。」と規定しています。
会社法は、株主総会当日に出席できない株主に対し、代理人を通じて総会に参加する機会を保障している一方、代理権の有無を客観的に明らかにさせるため、委任状を株式会社に提出することを株主側に義務付けています。なお、経営にさほど興味のない株主から包括的な白紙委任を受けることによって経営陣が会社経営を支配することを避けるため、同2項等により代理人による議決権行使の手続き等について一定の規律も設けています。
(2)書面投票制度(298条1項3号)との違い
書面投票 | 代理人による議決権行使 | |
---|---|---|
議決権行使の方法 | 株主本人による直接行使 | 代理人を通じた議決権行使 |
制度採用の義務 | 採用義務なし。但し、議決権を有する株主数が1000人以上の場合は書面投票制度を採用しなければならない(298条2項)。 | 定款で議決権の代理公使を禁止することは認められず、採用の義務がある。 |
法規制の適用 | 書面投票制度を採用した会社全てに会社法及び会社法施行規則による規制がある。 | 上場会社の株式について委任状勧誘を行う場合は委任状勧誘規制の適用がある(金商法194条・施行令36条の2~36条の6・勧誘府令)→詳しくは後述 |
代理人による議決権行使と書面投票とは、上記のような制度的な違いがあるため、修正動議に対する取り扱い等、実務的な対応も異なることになります。
(3)いわゆる委任状争奪戦(プロキシー・ファイト)について
会社提案であれ株主提案であれ、自ら提案した議案が株主総会において承認可決されることを望むことは当たり前のことですが、代理人による議決権行使は、株主総会開催当日はもちろんのこと、開催日に先立って委任状を取得することにより、事実上、議案に対する賛否の見通しが立て易くなります。
そのため、公開会社であれ非公開会社であれ、多数の株主を巻き込む経営の支配権争いが生じた場合、委任状争奪戦、いわゆるプロキシー・ファイトが会社側と株主側との間で繰り広げられることになります。