カルロス・ゴーン氏が3月5日に保釈された。

ゴーン氏の弁護人の弘中先生と高野(隆)先生と言えば、弁護士の立場からみても、言わずもがな、刑事弁護の世界でのレジェンドと言っても過言ではない2人である。(なお、関西の重鎮である秋田先生や森下先生が弁護団に加わっておられない様子なのは、地理的な問題などからしょうがないのかな、と思いつつも、一抹の寂しさを覚える。)そして、刑事弁護に携わる者として、ヤメ検の弁護人が取れなかった保釈を専ら刑事弁護に身を投じてこられた2人の指揮の下で獲得されたことは個人的には非常に嬉しい。

ハッキリ言うと、そのことだけで優に1本コラムが書けるのだが、「会社法」からは大きくずれるので、それはまた別の機会にしたい。

 

さて、カルロス・ゴーン氏は、2019年3月11日現在、日産の取締役としては席が残っているが、関連の報道によれば、4月中旬には、臨時株主総会決議により、取締役の地位を解任されるようである。日産が、ゴーン氏を取締役から解任した場合、ゴーン氏は、当然、日産に対して、「正当な理由なき解任」として、取締役の残期間に対応する損害賠償請求訴訟を起こすと思われる。

仮にゴーン氏の役員解任決議が強行されて、ゴーン氏から日産に対して損害賠償請求がなされた場合の裁判の行く末だが、取締役の解任に正当な理由があるかどうかは、会社側が証明しなければならないなど、意外に会社側の立証のハードルは易しくはない。

詳しくは、事務所後輩である内本奈緒子弁護士の記事「取締役の解任」に書かれている通りで、有罪、となれば、おそらくゴーン氏の解任に「正当な理由」は認められるのであろうが、もし無罪となれば、ゴーン氏の解任に「正当な理由」が認められるかどうかは微妙なところだ。

 

カルロス・ゴーン氏の役員の残期間は短いので、日産の規模の大きさからすると、会社に対する金銭的影響はそれほど大きいと思われない。

政策的判断として、解任せずに任期満了による退任を目論んで放っておく、というのも無くはない気もするが、株主への説明義務や当初の対応との一貫性を考えると、取締役解任は会社からすると、当然の帰結なのだろう。

弁護士に成り立ての頃は不思議なものだったが、経験を積んでいく中で、スポーツや政治の世界のように、法律的な手続きにも、目に見えない「流れ」があることを感じることが多くなる。カルロス・ゴーン氏の解任(とそれに呼応・対応する)ゴーン氏から日産に対する損害賠償請求訴訟がなされることは、一種の「流れ」のように思えてならない。

 

このように、「取締役の違法行為の発覚や指摘‐取締役の解任強行(‐元取締役から会社への損害賠償請求)」という一連のプロセスは、会社の内部紛争でのごく有りがちな「流れ」であるが、何しろ、実際に動いている金額や社会的影響が非常に大きいので、インパクトが非常に大きい。

また、傍目には紛争が拡大しているように見えるので、今後、仮に日産によるゴーン氏の役員の解任やゴーン氏から日産への損害賠償請求訴訟が行われた場合は、紙面を大いに賑わせるものと思われる。

もっとも、これまでの一連の「流れ」に対して、今回の「保釈」が、一種の「楔(くさび)」を打ったように感じたのは、私だけだろうか。「流れ」に身を任すだけでは、良い弁護士になれないのもまた事実であることを感じた今回の保釈、やはり、日産とゴーン氏の対決は、今後も目が離せない。