競業取引の具体的検討②~応用編~
(前回の記事:「取締役の責任〜競業避止義務〜」)

では、どのような場合に競業取引となるか、引続き具体的に検討してみましょう。
ア:製パン会社が工場設置予定地として購入することを予定している土地を、取締役が自己又は第三者の利得のために取得すること。
工場設置予定地の購入のように、会社の事業遂行の維持・便益のために行われる補助的行為は競業取引にはあたらないとされています。しかし、取締役が、会社が工場設置予定地として購入する予定があることを知りながら、自分で購入してしまうような場合は、取締役が会社に対して負っている忠実義務に違反する可能性もありますから、注意が必要です。(「リーガルクエスト会社法[第三版]」p.225)
イ:照明器具製造会社Aの役員が、照明器具製造会社Bの役員に就任すること(就任行為それ自体の競業取引該当性)
役員に就任することは競業他社との契約ではありますが、「取引」行為にはあたらないといえます。したがって、照明器具製造会社Bの役員に就任することそれ自体は競業取引にはあたりません。競業取引が問題となるのは、就任後の具体的な取引についてになります。
しかし、取締役就任の時点で将来的に競業取引を行うことが予測できます。照明器具製造会社A社としては、自社に損害が生じないように注意する必要がありますし、取締役としても、損害賠償責任が生じないように、慎重に行動する必要があります。この点については、エの項目でくわしく触れることにします。
次ページ 「ウ:不動産会社Aの役員Xが、不動産会社Bを設立すること、及び…」
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