競業取引の具体的検討②~応用編~

ウ:不動産会社Aの役員Xが、不動産会社Bを設立すること、及び、同会社Bに現実の事業行為を開始させること

設立自体は「取引」行為ではありませんので、原則的には競業取引とはいえません。しかし、新会社が事業行為を開始した場合は、その事業は競業する具体的な「取引」をほぼ必然的に行うことになります。

不動産会社(B社)が具体的取引を行った場合、B社の設立者であるXがそれらの取引を行ったといえるかが問題となります。裁判例(東京地裁昭和56年3月26日判決など)では、会社経営に事実上の影響力を持つ支配株主等の責任を追求する傾向にあり、XがB社の支配株主である、発行済み株式の過半数は保有していないもののXに対向可能な株式を保有する株式が存在せず、かつ、別会社に物的人的援助を行っていた(大阪高裁平成2年7月18日判決)などの事情があれば、B社の取引行為は、Xの競業避止義務違反として責任を問われることとなると考えられます。

エ:退任した取締役の、競業避止義務違反の該当性と射程について

退任した取締役は、退任後の行為について競業避止義務を負わないのが原則です。

しかし、退任した元取締役が、退任後すぐに競業する事業を始めたような場合には、取締役であった時期に競業他社の役員に就任していることや、新会社を設立していたりなどの準備行為が行われていることが往々にしてあります。

これは、上記事例のイ・ウにもかかわることですが、このような場合にも競業避止義務違反にあたらないといえるでしょうか。

ここで、実際の裁判例(千葉地方裁判所松戸支部平成20年7月16日決定)を見てみましょう。

青果物 の小売業及び卸売業等を業とするA社の取締役であったYは、A社を退任した直後に実際の事業行為を開始しました。しかし、Yは退任前に、(同じくA社の役員であったYの父を通じて)A社の取引先にA社との取引の中止を持ちかけるなどといった準備行為をしていたり、A社役員を退任した直後、従業員にA社を退職するように誘導したりなどしていました。

A社は大口の取引先の殆どをYが退任した後に就職したB社その他関連会社に奪われ、売上が大きく減少するなど経営がうまく行かなくなりました。そこで、A社はYに対して損害賠償請求訴訟(本案訴訟)を提起すると共に、同損害賠償の仮払い仮処分命令及び違法行為差止め仮処分命令の申立を行いました。

これに対して裁判所は、仮処分命令に関する判断の中で、「取締役が退任した後は、(競業避止義務を含む)上記各義務は消滅し、会社との競業については、職業選択の自由の保障により原則として自由にできることになるものと解されるが、取締役の行為の時期や態様に照らして、信義則上、上記各義務を負うことがあるものと解される。」と示したうえで、退任した元取締役の行為について、「信義則上、取締役の善管注意義務、忠実義務に違反するとともに、取締役の競業避止義務にも違反するものというべきである」と判示しています。

ここでは、Yの競業避止義務違反のみが損害賠償の原因となっているわけではありませんが、競業取引の準備行為がある場合は、退任後の行為についても会社は損害賠償を請求しうることが示唆されていることには違いありません。会社としては、退任後の競業取引であっても、退任前の行為を遡って検討する余地がありますし、(退任後に競業取引を予定している)取締役としては、役員退任前の行動には十分注意する必要があるといえます。

次ページ 「因みに、この裁判例に照らした場合は、」

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