取締役の非行を食い止める〜職務執行停止の仮処分〜

取締役が明らかに会社にとって不利益な取引を行なっているときや、法律違反の行為をしている、またはしようとしている場合は、訴訟による対応では間に合わず、かといって取締役会による解職手続や、株主総会による解任決議といった社内手続を経たとしても功を奏さない場合があり、確実に食い止めることは難しいといえます。
このようなとき、直ちに当該取締役の職務を食い止めるには、職務執行の仮処分を求めることが極めて有効です。職務執行の仮処分の命令が下りれば、訴訟による紛争解決を待たずに、直ちに取締役地位を暫定的に失わせることができます。今回は、どのような場合に職務執行の仮処分が認められるのかを説明します。
職務執行停止の仮処分が認められるには
仮処分命令が出されるには、ふたつの要件「被保全権利」と「保全の必要性」が必要とされています(民事保全法13条1項)。
被保全権利
仮処分は判決が出るまでの間に裁判の目的が達成できなくなってしまうことを回避するための制度ですので、もととなる訴訟(本案訴訟といいます)がなくてはなりません。そして、この本案訴訟の請求権が「被保全権利」となります。
請求権が取締役の職務執行停止の仮処分の被保全権利となるのは、本案訴訟が
①取締役の地位が問題となる訴訟の提起が株主総会の取締役選任決議の不存在・無効確認・取消しの訴え(会社法830条・831条)
②取締役解任の訴え(会社法854条)
③代表取締役決議の取締役会決議の不存在・無効確認の訴え
④取締役の地位不存在の訴え
⑤設立無効の訴え(会社法828条1項1号)
といった、取締役地位が存在しないことにかかる訴訟である場合とされています。(「類型別会社訴訟II(第三版)」東京地方裁判所商事部p.872)
内部紛争の関連記事
- ・何故株主権の帰属が問題となるのか?
- ・内部紛争案件の分類と法律相談事例について(一問一答式)後編
- ・内部紛争案件の分類と法律相談事例について(一問一答式)前編
- ・内部紛争案件の法律相談のポイント(一問一答式)
- ・取締役の解任のために、株主が株主総会を開催することはできますか?
- ・新株発行の無効原因~閉鎖会社において株主総会決議を経ない場合の扱い~
- ・中小企業における株主名簿等の実態と株主の確定
- ・デッドロック状態になった場合の会社の処理
- ・取締役の職務執行停止 〜保全の必要性とその疎明〜
- ・取締役の職務執行停止 ~被保全権利とその疎明~
- ・株主総会決議の不存在、無効、取り消し
- ・取締役の非行を食い止める〜職務執行停止の仮処分〜
- ・取締役の責任〜利益相反取引〜
取締役・取締役会にまつわる問題の関連記事
- ・カルロス・ゴーン氏の逮捕と会社法②(弁護士中村真二のコラム)
- ・カルロス・ゴーン氏の逮捕と会社法(弁護士中村真二のコラム)
- ・取締役の解任のために、株主が株主総会を開催することはできますか?
- ・取締役の職務執行停止 〜保全の必要性とその疎明〜
- ・取締役の職務執行停止 ~被保全権利とその疎明~
- ・取締役の非行を食い止める〜職務執行停止の仮処分〜
- ・取締役の責任〜利益相反取引〜
- ・競業取引の具体的検討②~応用編~
- ・取締役の責任〜競業避止義務〜
- ・取締役の任期
- ・取締役の資格・欠格事由とは
- ・他の取締役に黙って金融機関から融資を受けようとする社長を法的に止めたいのですが。
- ・取締役会議事録を作成しない場合、どのような不都合が生じますか?
- ・取締役会議事録や株主総会議事録を作成しない場合、法律上、何か問題があるんでしょうか。
- ・独断で自己株式処分を進める社長を阻止できませんか。