事例・コラム
マンションの更新料を払う必要がありますか?
Q. 借りているマンションの居住環境に納得できないため更新契約書を書く気になれず、法定更新になる見込みです。法定更新では更新はありえないはずですが、契約書の通り2年毎に更新料の支払いが必要になるのでしょうか?
1箇月後にマンション更新を迎える者です。
2年前に、関西でマンションを借りたのですが、契約書には、更新料の支払いの記載がありました。
契約してから、マンションに住んでみると、ハウスクリーニングがされていなかったり、トイレの排水が整備不良でつまっていて排水があふれたり、ペット禁止にも関わらず、ペット購入している住人がいたり、で、居住環境に納得がいきませんでした。
家賃値下げ交渉をしましたが、応じてもらえず、今にいたります。
諸々の事情により、この場所に住み続ける予定ですが、納得できずに、更新契約書を書く気になれず、法定更新になる見込みです。
ところで、契約書には、法定更新しても更新料を支払う、との記載があります。さらに、契約書の文面には、法定更新しても、2年毎に更新料の支払いをするようにも記載があります。
A. 法定更新後の2年毎の更新料の支払いの必要性については、当職は疑問を感じます。
下記の4点に分けて説明いたします。
- 1.法定更新の際の更新料については、最高裁判例がある
- 2.法定更新後の更新料の支払は別
- 3.当職(弁護士 中村真二)の見解~有効性には疑問符が付く~
- 4.事業者の方にとっても、消費者契約法には、注意・配慮が必要
1.法定更新の際の更新料については、最高裁判例がある
始めに、法定更新の際の更新料について、説明いたします。
この点については、更新料の支払条項の有効性が問題となった最高裁平成23年7月15日判決の事案があります。
同事案は、契約書には、
と記載され、かつ、実際、法定更新の際の更新料の未払いが問題となった事案でした。
そして、最高裁は、結論として、当該事案での更新料(条項)の有効性を認め、法定更新の際の更新料の支払を命じました。
したがって、ご相談事案の更新料の金額等、他の事情にもよりますが、少なくとも、法定更新の際の更新料(の有効性)については、積極的な見通しをもたれない方が良いかと存じます。
2.法定更新後の更新料の支払は別
ところで、ご相談にある「法定更新の場合でも、2年毎に更新料の支払は必要なのか?」の点ですが、上記事案では、法定更新後の期限の到来による更新料は、そもそも請求の対象となっておりません。
したがって、法定更新後の2年毎の「更新料」の支払(条項の有効性)を別に解する考え方も、成り立ち得ると存じます。
法定更新後の2年毎の更新料の支払条項の有効性は、更新料の法的性質をどのように解するか、と密接に結びついています。
更新料の法的性質を、「賃料の補充ないし前払い」としてみるのであれば、法定更新後の2年毎の更新料の支払条項の有効性は、認められる方向に傾くことになります。
一方、更新料の法的性質を、
- ・更新承諾の対価、あるいは、賃貸人の更新拒絶権の対価、あるいは、賃貸借の円満な継続の対価
- ・対価的性質の乏しい贈与的な性質
- ・上記最高裁は、更新料条項が、消費者契約法10条の適用対象であることそのものは認めていること(細かい説明は、相談の本旨から外れますので、ここでは省きます)
- ・上記最高裁の考え方を前提としたとしても、更新料が賃貸借の円満な継続の対価の性質を帯びることは否定しにくいこと
- ・更新料条項は、その文言からして、契約更新の際の発生を目的としており、法定更新後の定期的な支払は、明らかにその趣旨及び目的を異にすること
- ・法定更新後も、賃借人が定期的に更新料名目の金銭を支払わねばならないとすることは、消費者と事業者との間に存する情報の質及び量並びに交渉力の点において、なお大きな格差があるとみる余地が十分にあること
- ・更新料に賃料の補充ないし前払いの要素があるのであれば、賃貸人は、賃料増額請求等によって、これを回復する途が残されていること
- ・更新料を含めないと(賃料相場と比べて)賃料が著しく低廉になることの鑑定書が必要になる(可能性があること)
としてみるのであれば、法定更新後の2年毎の更新料の支払条項の有効性は、否定される方向に傾くことになります。
更新料の法的性質につき、上記最高裁判決は、
と判示しました。
要するに、どちらの要素も含む、という判断であり、上記最高裁の判断は、ご相談内容に対する回答の射程外と解されると存じます。
ところで、これまで、更新料の支払合意が、法定更新に及ぶかどうかは、主として1回目の法定更新の際の更新料について、争点となっており、法定更新後の期限の到来による更新料の有効性については、当職が調査した限り、あまり見当たりせん。
以上の事情を考慮すると、どちらの判断も有り得るとは思います。
3.当職(弁護士 中村真二)の見解~有効性には疑問符が付く~
当職の考えを述べると、
等からすると、周辺賃料(賃料相場)と比較にもよりますが、その有効性は大いに疑問である印象を受けます。
法定更新での更新料の支払の有効性が問題となった東京地裁平成4年1月23日判決は、法定更新での更新料の支払の有効性を認めつつ、
として、法定更新後の(2回目の)更新料の支払を認めませんでした。
そもそも、上記事案の賃貸人も、正面から法定更新後の(2回目の)更新料の支払を請求していたわけではなく、「法定更新ではなく、合意更新であること」を主張していました(それに対して、裁判所が、合意更新ではなく、法定更新であると判断した事案です)。
上記事案では、判決文を読む限り更新後の定期的な(更新料名目の)金銭の支払が明記されていませんので、ご相談の事案と必ずしもマッチしないのですが、上記の通り、最高裁は、更新料条項が消費者契約法10条の適用対象であることそのものは認めておりますので、「契約書に書いてある」から直ちに請求できる、ということにはならないように思えます。
「更新料」といいながら、法定更新後にも定期的に支払義務が発生する、というのは、個人的にはどうしても違和感を覚えます。
したがって、ご質問に対する当職の見解は、法定更新後の2年毎の更新料の支払いの必要性については、疑問を感じるということになります。
4.事業者の方にとっても、消費者契約法には、注意・配慮が必要
(当たり前ですが)賃貸人(事業者)の立場の方から、相談を受けたとしても、同様の回答になると思われます。訴訟実務としては、
を、指摘させていただくことになるかと存じます。
鑑定料は、高いときは100万円を超えるなど、決して安くありません。費用対効果を考えると、法定更新後の2回目以降の更新料の支払は、決してお奨めできるものではありません。
消費者契約法(10条)の適用の有無は、賃借人(消費者)だけではなく、賃貸人(事業者)にとっても、それだけ注意・配慮が必要な法律といえます。