1 はじめに

とある閉鎖会社の、過半数株式を保有している大株主が、「2か月前、現代表取締役が知らないうちに新株発行を行って、株式保有比率を下げられてしまった。もうどうしようもないのか。」と法律相談に来たことがあった。

後でも述べるが、閉鎖会社における新株発行の際は株主総会の特別決議を必要とし、かかる特別決議を欠いた新株発行は無効と考えるのが有力であるし、私もそう考える。私はすぐにその旨を回答して必要であれば新株発行の無効確認の訴えを提起するようにアドバイスをした。幸い、大株主の株式保有比率が過半数を割っていなかったこと等もあってその後現代表取締役とは話合いがまとまり、法廷闘争に発展することはなかったが、後日、知り合いのA弁護士と話をした際に、「新株発行の際の無効が認められる原因は非常に限られている。株主総会決議を欠くくらいであれば、無効原因にはならないのではないか。」と指摘されたことがあった。A弁護士は、会社法を専門としているわけではないが、非常に勉強家で、出来の悪い弁護士という印象はない。「新株発行の際の無効が認められる原因は非常に限られている。」というのも確かにその通りで、「株主総会決議を欠くくらいであれば、無効原因にはならないのではないか。」と言うのも、場面によっては間違いではない。このときはお互いに専門書を突き合わせて行った議論ではないし、そもそも現時点でこの点に関する最高裁判例があるわけでもない(「有力である」と留めたのもそのためである。)ので、A弁護士の考え方が間違いだ、ということも言い切れないのかもしれない。新株発行の無効原因の扱いは、それだけ場面によって扱いが変わる部分でもある。

2 新株発行の際の無効原因は限定的に解されていること

新株発行の際の無効原因は法定されておらず解釈に委ねられているものの、A弁護士が私に最初に指摘したように、「新株発行の際の無効が認められる原因は非常に限られている。」と言うのは確かにその通りであり、通説である。

これは、株式譲受人の取引安全を図る必要があることや、新株発行が無効とされた場合に取引先や債権者等に与える影響が大きいこと等が理由とされている。