事例・コラム
大渕弁護士・業務停止処分から、思うこと
1 同じ番組の過去出演者のスタンスは対立
「行列ができる法律相談所」でタレントとしても活動していた大渕愛子弁護士が、報道によると、法テラスを利用していた依頼者から、法テラスの利用開始後に、法テラス利用前の元々の着手金等の差額を受領したとして、東京弁護士会から2016年8月2日付で「業務停止1ヶ月」の懲戒処分を受けたようである。
この処分に対しては、同じ番組に過去出演していた橋本弁護士が、「著しく重い処分であり、不当」と大渕弁護士を擁護する一方、同番組に過去出演していた住田裕子弁護士が、「残念ながら、(法テラス制度は)弁護士としては『当然知っておくべきルール』」「(法テラスの制度を)知らないわけがないです。大渕弁護士の場合、独立してすぐに(同制度を)使っていて、それで中身について知らないというのは理解できない」と大渕弁護士を厳しく批判している。共演者の菊地幸夫弁護士も、住田弁護士と同様の見解のようだ。
2 公的機関・制度の利用→金銭出自の透明化・一本化は大原則
弁護士目線で申し訳ないが、大渕弁護士の弁護士報酬の多寡はさておき、法テラスとの差額分の弁護士報酬をどうにかしたかった、という同弁護士の心情は、同業者として理解できなくはない。
依頼者の方が思っておられる以上に、弁護士費用の不払い・滞納は(少なくとも私は)嫌なものである。
「本当に困っている」と判断した場合は、私の場合は、大抵、弁護士費用を決める前に金額を下げているので、「一度決めた以上は、きちんと払って欲しい」というのが弁護士側の理屈ではある。
ただ、そうだとしても、大渕弁護士のケースの場合、
・(法テラスへの切替はせずに)解決時の回収金で補えるよう、一生懸命頑張る
・(法テラスに切り替えるのであれば)元々の着手金等はスッパリ諦める
・事件を最初から受任しない(途中であれば辞任する)
など、他の方法を取ることができるし、かつそうするのが筋合いであり、公的機関である「法テラス」へ切り替えていながら、元々の着手金等との差額分を改めて請求、受領するという行為に酌量の余地はない。
国選弁護人受任の際もそうであるように、公的な機関や制度を利用する際は、お金の問題は極めてクリーン、かつ、一本化しなければならないのは、弁護士としての大原則だからだ。
法テラスのルールを本当に知らなかったかどうかは定かではないが、例えば、国選弁護人に受任した際に関係者から金銭を受領してはいけないことは司法修習時代にも習うことであり、少し考えれば、分かることである。
依頼者の経済的困難等を理由に、通常受任から「法テラス」に切り替えた案件は私自身もある。
それは「示談交渉」(のみの受任)→「訴訟提起」(の場面の追加受任)という受任範囲が切り替わった場面であり、当初の受任範囲と重複する形で「法テラス」に切り替えた大渕弁護士の場合とは事情が異なるが、それでも私の場合、「法テラス」に切り替える前の「示談交渉」段階に滞納されていた未払の弁護士報酬(債権)を、切替に先だって全て放棄した(放棄書面もきちんと作成している)。
「依頼者のため」という意味合いがあったことも否定はしないが、それだけではない。上手くいえないが、「法テラス」に切り替えるにあたって、通常受任の際の未精算分が残っているのは、何となく気持ち悪かったからだ。国選弁護人受任もそうであるように、公的な制度を利用する際は、お金の問題はきちんと整理していないと頗る座りが悪い。