A1.原則として賃借権を主張できません

平成15年の民法改正もあり、抵当権が設定された後に当該物件を借り入れた賃借人(=御社)は、全ての抵当権者及び抵当権を目的とする権利を有する者(所有者等)の同意とその旨の登記がない限り、抵当権実行後の所有者に対して、その賃借権を対向することはできません(民法387条)。

したがって、賃借人は、出て行かなければならなくなります。

もっとも、新所有者は、旧来の賃借人に対して、常に「極端な話、来週出て行ってくれ」と主張できるわけではありません。

民法390条に次の規定があるためです。

「競売手続の開始前から使用又は収益をする者」は、「その建物の競売における買受け人の買受けのときから6ヶ月を経過するまでは、その建物を買受け人に引渡すことを要しない。」

よって、新所有者の買受け時が平成26年4月であれば同年10月まで、御社は、賃料相当のお金を、きちんと新所有者に支払いさえすれば、賃借物件を明渡す必要はありません。なお、賃料相当金を支払わない場合は、すぐに出て行かなければならなくなります(民法395条2項)。

6ヶ月が経過した以降は、(賃料を払っていたとしても)「出て行け」といわれれば、出て行く必要があります。継続して同物件の賃借を希望される場合は、新たに、新所有者との間で、賃貸借契約を締結する必要があります。以前は、短期賃貸借を保護する規定がありましたが、脱法的行為に用いられることが多いなど弊害が大きく、諸々の経緯により、平成15年に同規定は無くなりました。したがって、新所有者と新たに賃貸借契約を締結しなければ、御社が、来年3月まで賃借し続けることはできません。

ところで、新所有者は、自力で御社を追い出すことができるわけではなく、裁判所の執行手続を経る必要があります。執行手続の申立から、実際の執行まで、ある程度、間が空くのが通常ですし、申立費用は、明渡し費用も含めると、決して小さくはありません。ですので、占有者(この場合は、御社)が、任意に明渡してくれるケースであれば、わざわざ執行手続を踏まないのが一般的です。

なお、申立の際の申立費用や明渡し費用は、一旦、申立人が立替しますが、最終的には、占有者に求償できます。そのため、6ヶ月の猶予期間経過後、必要以上に粘ると、御社に思わぬ経済的負担がかかることになります。

新所有者との賃貸借契約の締結が難しいようであれば、適当なところで、明け渡してしまった方が無難かと思われます。

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