事例紹介
株主総会の開催にあたっての8つのご質問(前編)
Q1.当社は、大阪市でソフトウェア開発を行っている会社です。
この度、社内で経営紛争が生じ、はじめてまともに株主総会を開催することになりました。後々揉めないように、開催にあたっては、法定の段取りを踏襲したいと考えています。
まず、株主総会を開催する際には、どのような手続を踏まなければならないのでしょうか。
A1.会社法は、株主総会の開催にあたって、次の通り規定しています。
第二百九十八条
取締役(前条第四項の規定により株主が株主総会を招集する場合にあっては、当該株主。次項本文及び次条から第三百二条までにおいて同じ。)は、株主総会を招集する場合には、次に掲げる事項を定めなければならない。
- 1.株主総会の日時及び場所
- 2.株主総会の目的である事項があるときは、当該事項
- 3.株主総会に出席しない株主が書面によって議決権を行使することができることとするときは、その旨
- 4.株主総会に出席しない株主が電磁的方法によって議決権を行使することができることとするときは、その旨
- 5.前各号に掲げるもののほか、法務省令で定める事項(※会社法施行規則第63条)
すなわち、取締役(取締役会設置会社の場合、取締役会。同条4項)は、株主総会の開催にあたって、まず下記の4点を取り決める必要があります。
- 1.株主総会の日時・場所
- 2.総会の目的事項
- 3.書面投票や電子投票を認めるときは、その旨
- 4.その他会社法施行規則63条で定める事項
ただし、取締役会非設置会社では、当初の目的以外の事項を株主総会で決議することも可能であるため(会社法309条5項参照)、②総会の目的事項、を予め決定する必要は必ずしもありません。
Q2.当社は、池田市で広告業を営んでいます。株主のうち、できれば参加して欲しくない人物がいるので、できるだけ不便な場所で開催したいのですが、開催場所を取り決める上で、気を付けることはありますか。
A2.どの株主も、出席しやすい場所を選定する方が無難といえるでしょう。
定款により招集地の定めがある場合を除いて、基本的には自由ですが、僻地など、株主が出席しにくい場所を招集地とした場合は、招集手続が著しく不公正な場合として決議取消事由となり得ます(会社法831条1項1号)。どの株主も、出席しやすい場所を選定する方が無難といえるでしょう。
ちなみに、会社法施行規則63条2号では、開催場所が過去に開催したいずれの場所とも著しく離れた場所であるときは、原則としてその場所を決定した理由も招集の決議時に決定することを要求しています。
Q3.当社は、東大阪市で工作機械を製造する取締役会設置会社です。株主総会の開催を決定した後、株主の招集は、どのように行うのですか。株主の招集にあたって、取締役会の設置の有無によって何か異同はありますか。
A3.株主総会の招集手続は、当該会社が取締役会を設置しているかどうかによって変わります。
ア.取締役会設置会社の場合
取締役会において、まず、株主総会の開催日時・場所・議題・書面による議決権行使の可否などを決定し、その上で、(代表)取締役が、招集通知書を原則として開催日の2週間前まで(発送日と会日は不算入)に各株主に発送して招集する必要があります(会社法299条1項・2項)。非公開会社の場合は、開催日の1週間前までに短縮されています。
イ.取締役会非設置会社の場合
取締役会非設置会社では、取締役において上記の事項を決定し(取締役が2人以上の場合は、過半数により決定する)、各株主に伝えます。
法的には口頭による招集通知も可能です。
ただ、「後々揉めない」ということを念頭におくと、内容証明や配達証明を利用するなどして、可能な限り、書面で通知する方が望ましいでしょう。
また、書面による投票や電子投票を採用した場合には、招集通知と共に、株主総会参考書類や議決権行使書面を交付しなければならず、そのため、招集通知を書面または電磁的方法により送付することが必要になります(会社法301条2項)。
Q4.当社は、豊中市で菓子製造業を営む取締役会設置会社です。取締役会設置会社の場合、招集通知書の発送が、法的要件であるとのことですが、招集通知書には、どのような事項を記載しなければならないのでしょうか。
A4.取締役会設置会社の場合、招集通知には、日時・場所、議題等、取締役会で決定した招集事項を記載する必要があります(会社法299条4項)
なお、取締役会非設置株式会社では、(Q1)の(A1)で述べた通り、予めの議題以外の事項も株主総会で審議・決議可能なため、招集通知に特に議題を明記しておく必要もありません。
(後編へ続きます。)
株主総会の仕組み・手続き、株主総会決議に関する問題の関連記事
人気記事ランキング
-
1位 閲覧数:110,083回
株主総会決議の不存在、無効、取り消し(2016/07/15掲載) -
2位 閲覧数:104,904回
株主総会における委任状の取り扱いについて①(2018/08/07掲載) -
3位 閲覧数:61,782回
株主総会における委任状の取り扱いについて②(2018/08/14掲載) -
4位 閲覧数:48,269回
取締役の責任〜利益相反取引〜(2016/07/01掲載) -
5位 閲覧数:43,976回
取締役の資格・欠格事由とは(2014/08/21掲載) -
6位 閲覧数:43,024回
取締役の責任〜競業避止義務〜(2016/05/18掲載) -
7位 閲覧数:42,307回
取締役の解任のために、株主が株主総会を開催することはできます...(2017/09/07掲載) -
8位 閲覧数:42,051回
株主は、会社の会計帳簿を閲覧することはできるでしょうか?(2014/07/30掲載) -
9位 閲覧数:28,781回
競業取引の具体的検討②~応用編~(2016/05/27掲載) -
10位 閲覧数:24,479回
小規模の株式会社の取締役設置について(2014/07/11掲載) -
11位 閲覧数:24,387回
株主の権利行使に関する利益供与の禁止(2018/02/27掲載) -
12位 閲覧数:24,099回
株主が死亡した場合の、相続人による名義書換請求(2014/09/12掲載) -
13位 閲覧数:23,651回
デッドロック状態になった場合の会社の処理(2017/01/30掲載) -
14位 閲覧数:21,201回
株主総会では、どのような事項を決める必要がありますか?(2014/07/02掲載) -
15位 閲覧数:20,734回
カルロス・ゴーン氏の逮捕と会社法(弁護士中村真二のコラム)(2018/11/21掲載) -
16位 閲覧数:14,167回
会社法上の株主の取扱(株主平等原則)(2018/02/27掲載) -
17位 閲覧数:14,087回
取締役会議事録を作成しない場合、どのような不都合が生じますか...(2014/06/13掲載) -
18位 閲覧数:10,848回
【株式と相続①】代表取締役だった父が亡くなり親族間での相続問...(2017/11/02掲載) -
19位 閲覧数:10,536回
取締役の非行を食い止める〜職務執行停止の仮処分〜(2016/07/08掲載) -
20位 閲覧数:10,368回
取締役の職務執行停止 ~被保全権利とその疎明~(2016/08/22掲載) -
21位 閲覧数:10,318回
中小企業における株主名簿等の実態と株主の確定(2017/02/08掲載) -
22位 閲覧数:9,966回
独断で自己株式処分を進める社長を阻止できませんか。(2013/08/07掲載) -
23位 閲覧数:9,474回
新株発行の無効原因~閉鎖会社において株主総会決議を経ない場合...(2017/05/25掲載) -
24位 閲覧数:9,423回
相続人が株主として経営に参加することを阻止する方法(2014/09/15掲載) -
25位 閲覧数:8,616回
何故株主権の帰属が問題となるのか?(2018/02/21掲載) -
26位 閲覧数:8,357回
取締役会議事録や株主総会議事録を作成しない場合、法律上、何か...(2014/03/07掲載) -
27位 閲覧数:7,833回
株券の発行する必要性、現在発行済み株券の廃止について(2014/08/11掲載) -
28位 閲覧数:7,237回
内部紛争案件の分類と法律相談事例について(一問一答式)後編(2017/10/27掲載) -
29位 閲覧数:6,708回
取締役の職務執行停止 〜保全の必要性とその疎明〜(2017/01/18掲載) -
30位 閲覧数:5,578回
取締役の任期(2014/08/24掲載)