しかし、直接証拠はそれだけで犯人性を直接認定できる強い証拠ですから、直接証拠から認定を始めてしまうと、弱い間接証拠の評価が直接証拠の評価に引っ張られてしまうかもしれない危険があります。犯人性の検討は慎重な事実認定と確実な立証が期待されるものです。なるべく偏見なく犯人性を検討するためには、間接事実から認定するべきなのです。

(1)間接事実

間接事実事実の検討は①認定した間接事実の概要②認定に至った過程③その証拠の持つ意味、の三つに分けて検討することが求められます。

① 認定した間接事実の概要

まず、被疑者の犯人性を推認させる事実として認定した間接事実の概要を簡単に示します。被疑者の犯人性を推認させる間接事実の類型としては、以下の6つの類型が考えられるところです。

  • ・事件現場に残された物品(ex:凶器や被害金品)や痕跡(ex:指紋、足跡、血痕、体液)と被疑者との結びつきを示す事実
  • ・犯人の特徴と被疑者の特徴の合致あるいは類似する事実
  • ・被疑者が犯行を行う機会があった事実(ex:被疑者が犯行時刻に犯行現場にいたかどうかという事実。いわゆるアリバイの有無等)
  • ・被疑者が犯行を行えたかどうかという事実(ex:能力や技能、被害者との関係)
  • ・犯行前後における被疑者の言動に関する事実
  • ・動機となり得る事情があった事実
② 認定に至った過程

どのような証拠から、どういう思考過程を辿って、その事実を認定したかを検討します。間接事実を証拠により直接認定できるのであれば簡単ですが、そのような証拠がなく、様々な証拠を総合的に用いて推論し認定する場合等、認定に至った過程が複雑になる場合もまれではありません。

認定するに当たっては以下3つのことを注意しなくてはなりません。

六何の原則

事件と被疑者との結びつきを論述するにあたっては、まず結びつきの対象となる事件そのものがいかなる事件であったのかを、いつ・どこで・誰が・何を・なぜ・どのように、という6のポイント(いわゆる5W1H。これを六何の原則と言います)を意識しながら検討します。

被疑者・共犯者の供述は認定根拠に用いない
事件にもよりますが、被疑者や共犯者の供述はあまり信用が高くないので、これを根拠に認定することは避けるべきです

認定根拠に用いる証拠の信用性
認定根拠に用いる証拠が供述証拠であるときは、その供述が本当に信用できるのかを検討しなくてはいけません。具体的には『他の証拠・事実との整合性』『供述者と「事件・被疑者・被害者等」との利害関係がないか』『供述態度や供述に変化があるか』『供述内容』などの要素を考慮して検討する。