Q.大阪市在住の30代の女性です。協議離婚の取消・無効について、相談させて下さい。

先日、私と実父で離婚届を提出いたしましたが、実は私にも夫にも離婚の意思はなく、半ば強制的に離婚届に記入させられ、提出させられました。

60代後半の夫と結婚後、両親に報告に行ったのですが激昂され、自宅にて母親が包丁を取り出し「離婚しないとあなたたちを殺して私も自殺する」と強要されました。やむ無く、両親が監視の下、私と夫でそれぞれ離婚届に署名・押印させられ、私はそのまま実家に留められ、夫は無理やり実家に帰らされました。その後、私と父親とで提出に行きました。

また、親は「戸籍に名前が載っているだけで虫唾が走る」と、こちらも半ば強引に、一旦他の地域に戸籍を移し離婚歴を消し、元の戸籍に戻す、という手続きまでさせられました。

このような状況なのですが、協議離婚の取消・無効とすることはできないでしょうか。本当であれば、再婚届を提出すれば済む話ですが、両親に同じことを繰り返させたくないこともあり、できれば、取消・無効で対処したいと考えております。

A.離婚の無効は厳しめですが、取消はやってみる価値があります。

1.前提知識

離婚の場合、実体的婚姻意思が要件とされる結婚の場合と異なり、離婚解消の実体的離婚意思がなくとも、離婚届を出す形式的意思だけで有効に成立すると裁判例上(※)判断されております。

※昭和57年3月26日最高裁判所第二小法廷判決の要旨
「夫婦が事実上の婚姻関係を継続しつつ、生活扶助を受けるための方便として協議離婚の届出をした場合でも、右届出が真に法律上の婚姻関係を解消する意思の合致に基づいてされたものであるときは、右協議離婚は無効とはいえない。」

2.離婚無効・取消の判断基準

離婚の場合でも、離婚の取消や無効の主張は認められています(民法764条、747条参照)。
ただし、前記の通り、離婚の場合、離婚届出を出す形式的意思があれば有効に成立すると解釈されていることとの兼合いから、離婚無効は、当事者に離婚届を提出する意思も欠ける場合に、離婚取消は、当事者に離婚届を提出する意思はあるものの、提出する意思の形成過程に瑕疵がある場合に限って認められます。

誤解を恐れず、平易に説明すると、

  • ・当事者に無断で離婚届出を出されたケースが離婚無効
  • ・当事者を脅したりなどして当事者本人に届出を出させたケースが離婚取消

になりますので、実際に夫婦関係を解消する意思があったかどうかが直接問題となるわけではない点は、注意が必要です。

3.離婚無効の本件への適用について

本件は、父親監視の下とはいえ、相談者がご自分で提出されたとのことですので、離婚無効は厳しめな印象を受けます。
配偶者の方は、提出の際に同席はしていないので、離婚無効を主張する余地もありますが、離婚届出に自分で署名・押印していることなどからすると、甘い見通しは禁物な印象を受けます。

4.離婚取消の本件への適用について

「両親が監視の下、私と夫でそれぞれ離婚届に署名・押印させられ、私はそのまま実家に留められ、夫は無理やり実家に帰らされました。」

「自宅にて母親が包丁を取り出し、離婚しないとあなたたちを殺して私も自殺する、と強要されました。」

子どもの幸せを想う立場から、思い余って出た行動かもしれませんが、上記の2点は、通常の離婚届の記入や提出と比べると、些か異常です。

戸籍変更時の詳細事情が不明(追認要素と判断されるおそれがある)なのが若干気になりますが、

  • ・配偶者の方は関与していないこと
  • ・配偶者の方に向けられた行為ではないこと
  • ・戸籍変更も「こちらも半ば強引に」とあること

から、取消が認められる余地は十分あると思います。

5.離婚取消は申立期限があることに注意が必要

離婚の取消権は、当事者が、詐欺を発見し、又は強迫を免れた後3箇月を経過し、又は追認をしたときは消滅いたします(民法764条、747条)。再婚届出の提出ではなく、離婚の取消に拘られるのであれば、急ぐ事案ですので、早め早めの対応を心がけて下さい。