事例・コラム
取締役の責任〜競業避止義務〜
競業取引の具体的検討①~基本編~
では、どのような取引が競業取引にあたるのでしょうか。わかりやすく言うと、市場と商品が会社の事業と重複してしまう取引がそれにあたります。競業取引が問題となる基本的なケースは以下のように分けることが出来ます。
ア:現実に重複する取引
例えば、製パン会社Aの取締役Xが、A製パン会社の販売地域で自ら手作りパン屋Bを開くような場合です。この場合は、市場も商品も競合していますので、典型的な競業取引にあたると考えられます。
イ:重複してしまう可能性がある取引
では、同じようなケースでも別の地域でならパンを売ることはできるでしょうか。A製パン会社が関東のみをターゲットとしていて、手作りパン屋Bは関西に出店した場合です。会社の現在の事業区域とは異なる地域の場合、抽象的には競業取引にあたらないようにも思えます。しかし、このような場合であっても、A製パン会社が関西にマーケットを拡大する準備を具体的に始めていたならば、競業取引にあたることになりますし(東京地裁昭和56年3月26日判決等)、実際上、多くの事業では、潜在的顧客層の競合、仕入れ販売先の競合を生ずるおそれから、競合関係を肯定することになる事案が多いとされる文献もあるため(「注釈会社法(6)〔新版〕」209~210頁)、注意が必要です。
また、同じ地域での製パン会社とケーキ屋ではどうでしょうか。この場合は判断が難しいところですが、パンとケーキは、小麦粉という原材料が同一であること〔「取引」には、販売・購入の双方を含み、例えばある物品の製造・販売を目的とする会社であれば、その原材料を購入する取引も競業となり得るとされています(最高裁昭和24年6月4日判決)〕等を勘案すると、私見としては競業取引であるように思えます。いずれにしても、個別の案件ごとに具体的に判断していく必要がありますので、いずれの立場に立ったとしても、注意して対応する必要があるでしょう。
→「競業取引の具体的検討②~応用編~」に続きます。>