刑事事件を取り扱っていると、「(犯罪を)『やっていない』と言っているのに、弁護士から、『やった、と言え』『早く罪を認めた方が良いよ』等と言われた。」との言葉を耳にすることがあります。

他の法律事務所は知りませんが、少なくとも私が刑事事件を取り扱う際に、(犯罪を)「やっていない」と言っている依頼者(被疑者、被告人)に対して、「やった、と言え」「罪を認めた方が良い」等と助言することは100%ありませんし、これまでもそのような弁護活動を行ったことはありません。

もっとも、依頼者が、(犯罪を)「やっていない」と言っていることと、依頼者の発言(供述)の中で、矛盾に感じる点や不自然な印象を抱く点を問いたださない、証拠と照らせ合わせない、ということは全くの別問題です。

過去の出来事を思い違いしている、あるいは記憶違いしているということは、誰しもあることです。また、弁護士が思い違いしていた、あるいはこちらが思ってもいなかった経験則で説明が付き、その裏付け証拠もある、というケースは多々あります。弁護士が疑問を覚えた都度、依頼者にその疑問を率直にぶつけ、必要な裏付け証拠を調査していくことで、当時の出来事や依頼者の言い分を、より正確で、よりリアルに、把握することがはじめて可能となります。

依頼者が語る真実は、このような問答の繰り返しとその過程で得られた裏付け証拠を踏まえ、法廷に顕出されることになります。

弁護士が感じる疑問点を、率直に依頼者に尋ね、必要な裏付け調査を行うことは、犯罪の成否を争う上で、むしろ、必要不可欠な弁護活動といえるのです。