事例・コラム
【株式と相続①】代表取締役だった父が亡くなり親族間での相続問題が発生。遺産分割協議がまとまっていない中での株主総会の実施について
私は、1950年創業の大阪市内の製造業を営む会社の代表取締役を務めている者です。当社は、発行済み株式総数3万株(額面上は1株500円)で、もともとは株主3名、取締役3名の閉鎖会社でした。
もともとの3名の株主は、会社設立者である私の父と母と長年父が信頼していたA氏(非親族)で、父が2万株(発行済み株式総数の66.6%)、母が3000株(発行済み株式総数の10%)、A氏が7000株(発行済み株式総数の23.3%)を保有しておりましたが、昨今、父が他界したことにより、父の株式が私と兄、母の3人に相続されました。
取締役は、以前は父と母とA氏の3人が務めていたのですが(父が代表取締役)、年老いた父が、亡くなる10数年前から、私に事業承継して貰いたいということで、父と入れ替わりで私が役員になりました。A氏も、自分の娘婿であるB氏を自分の後継者したい、ということで、A氏と入れ替わりでB氏も役員になっております。
ところが、父が他界してから、長年疎遠だった兄と私・母との間で相続問題が発生し、それをきっかけに兄が当社の経営にアレコレと横やりを入れるようになってきました。
問い1
兄が当社の経営に横やりを入れるようになってきたこともあり、長年まともに開催していなかった株主総会を、今期はきちんと実施することになりました。
株主総会の実施にあたり、私と兄、母が相続した父の株式は、どのように扱えばよいのでしょうか?
単純に、2万株をそれぞれの法定相続分で計算して、私と兄が5000株、母が1万株(母がもともと持っていた3000株を含めて1万3000株)として対処すればよいのでしょうか。なお、遺産分割協議はいまだまとまっておらず、現在、調停中です。
答え
共同相続された株式は、相続開始と同時に当然に分割されるわけではない
会社設立者が亡くなられること等をきっかけとして、内部紛争等が生じることは往々にしてあります。会社設立者が、生前、自己の株式を事業承継者に譲渡し終えていれば良いのですが、様々な事情から、自己の株式名義のまま亡くなることも決して少なくありません。
ところで、金銭その他の可分債権は、遺産分割を経ずに、相続開始によって当然に、各共同相続人にその相続分に応じて承継されるものとして扱われています(最判昭和29年4月8日、最判昭和30年5月31日、最判平成16年4月20日等。但し、預貯金払戻請求権については、遺産分割の対象になり当然に分割されるわけではないとした、最判平成28年12月19日に注意)。
その考え方からすると、本件のように、可分に株式を振り分けることができる場合、それぞれの法定相続分にしたがった株式数の保有者として取り扱えばそれでよいようにも思えます。
しかしながら、裁判所は、「共同相続された株式は、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはない」(最判平成26年2月25日等)と判断しており、その考え方を否定しています。
したがって、ご質問のケースでは、お父様が保有しておられた2万株全部について、分割した取り扱いをすることなく、貴方とお母様と貴兄の3人の共有状態として取り扱う必要があります。