② 法益が異なるが、重い罪と軽い罪を別個に扱う必要がない

眼鏡をかけている人を殴った際に眼鏡を壊したり、包丁で人を刺したときにその人の服を破いても、器物損壊罪は、傷害や殺人罪に吸収されて包括一罪となります。この場合は眼鏡が壊れたり服が破けたことは重い罪の宣告刑(※4)を定める際に考慮するさいに情状として考慮すれば十分ということで、包括一罪になります。

③ 科刑上一罪に類似する

法益は明らかに異なり、重い罪のみで評価すれば十分とも言えないものの、科刑上一罪に類似している場合(すなわち、手段と結果の関係にある場合)もまた、併合罪とすることが不自然になるため包括一罪となります。

裁判例では詐欺罪が私文書偽造より先に既遂となった事案で、両罪を包括一罪としたものがあります(東京高判平7・3・14)。

  • ※1 明文の規定がある場合を科刑上一罪といい、刑法54条1項に書いてあります。
  • ※2 法律上保護されている権利や利益を害することです。
  • ※3 違法かつ有責とされる行為のことで、この行為にあたると刑罰を受けることになります。
  • ※4 法定刑に加重・減軽した処断刑の範囲内で、最終的に裁判官が決めて言い渡す刑のこと。実際に執行される刑がこれです。

参考文献
山口厚 (2016年) 「刑法総論(第3版)」
大塚裕史・十河太朗・塩谷毅・豊田兼彦 (2016年) 「基本刑法Ⅰ 総論(第2版)」
山口厚・佐伯仁志 (2014年) 「刑法判例百選Ⅰ総論(第7版)」
今井猛嘉・小林憲太郎・島田聡一郎・橋爪隆  (2012年) 「刑法総論(第2版)」
山中敬一 (2015年) 「刑法総論(第3版)」
只木誠 (2009年) 「罪数論の研究(補訂版)」