はじめに

nkj56_kannkeisyaigai_tp_v

正当防衛はあくまで「やむを得ずにした行為」でなければならず、「やむを得ずにした行為」とは「反撃行為が…防衛手段として相当性を有するもの…」(最判昭和44.12.4刑集23巻12号1573頁)のことを言いますが、「相当」とはいえないような行き過ぎた防衛手段であっても、裁判官は任意的に刑を軽減または免除できるとしております。このような防衛を過剰防衛と呼びます(刑法36条2項)。

また、正当防衛が成立する状態でないのに、そのような状態であると誤信して防衛行為に出てしまった場合を誤想防衛といいます。

では、次のような場合は過剰防衛と誤想防衛のどちらを問題とするべきでしょうか?

Case1

空手3段の腕前である男性X(身長180cm、80kg)が、夜間帰宅途中の路上で、酩酊した女性Aとこれをなだめていた男性B(身長160cm、60kg)とがもみ合ううち、A女が倉庫の鉄製シャッターにぶつかって尻餅をついたのを目撃した。

その際、A女が「ヘルプミー、ヘルプミー」などと(冗談で)叫んだため、Xは『女性が男性に暴行を受けている』と誤解して両者の間に割って入り、A女を助け起こそうとし、ついでBのほうに振り向き両手を差し出した。

Bはこれを見てXが自分に襲い掛かってくるものと誤解し、防御するために自分の手を握って胸の前あたりに上げたところ、Xもまた、『Bがファイティングポーズをとり自分に襲い掛かってくる』と誤解し、自己およびA女を守ろうと考え、B男の顔面付近を狙って空手技である回し蹴りをし、実際に男性の右顔面付近に命中させた。(最高裁判所昭和62年3月26日刑集41巻2号182頁。通称、『勘違い騎士道事件』)

次ページ 「XとBの体格差や、Bは両手を掲げてファイティングポーズを取ったにすぎないことを考えると」