1. はじめに

刑事事件で有罪となるのはどういう場合でしょうか?まず一つは、罪を犯したこと、つまり犯罪事実があることでしょう。そもそもやったことが犯罪でなければ逮捕されないのは当然です。しかし、それ以上に重要なのは、被疑者がその罪を行ったということが認定できるかどうか、ということです。たとえ、 たとえ被疑者本人が「私が犯人です」と認めていても、他に証拠がない場合に有罪とすることは許されません。「疑わしきは罰せず」という刑事裁判の鉄則に反します。

この「被疑者が当該事件の真犯人か否か?」という問題のことを「犯人性」といいます。「事件と被疑者の結びつき」「犯人と被疑者との同一性」とも言われたりします。

この犯人性を検討するにあたっては、「被疑者の自白を除いた証拠によってどこまでの事実が認定できるか?」という観点が重要になります。

2. 検討順序

犯人性の検討に当たっては、被疑者が当該事件の犯人か否かを、証拠に基づき論述する必要があります。検討の順序は、間接証拠→直接証拠→被疑者の供述、となります。

たとえ、被疑者の犯人性を直接認定できる証拠(例えば、被害者や目撃者の供述など。これを直接証拠と呼びます)がある場合でも、まずは被疑者の犯人性を推認させる事実を認定できる証拠(例えば、凶器に付着した指紋や盗品など。これを「間接証拠」又は「情況証拠」と呼びます)から検討します。

なぜわざわざ証拠としての力が弱い間接証拠から検討していくのでしょうか?実際、直接証拠から検討するのか間接証拠から検討するのかは、単純に決められるものではなく、どちらから検討を始めても変わらないともいえるでしょう。