事例紹介

テナント契約中に建物の所有者が変わり、退去を求められています

Q.学習塾を経営しています。塾の教室をテナントとして借りていたところ、建物の所有者が変わり、新所有者から早急に退去を求められていて困っています。Q1. すぐに退去する必要があるのか、Q2.保証金は返還されるのか、Q3.原状回復の義務はあるのか、について教えていただけないでしょうか。

当社は、現在、吹田市で学習塾を経営しています。塾の教室をテナントとして借りている家主とのトラブルです。

当社は、もともとAという会社と賃貸契約を結びましたが、Aが倒産し、そのビルが競売にかけられることになりました。その結果、平成26年4月にBというIT会社が新所有者となりました。

Bからは、早急に建物を明渡すよう、求められており、トラブルになっています。以下、いくつか教えていただけないでしょうか。

Q1.すぐに退去しなければいけないのですか。

Bからは、内容証明郵便などの書類はまだ届いていませんが、極端な話、来週出て行ってくれ、とBは主張できるのでしょうか?

競売の場合、物件を借り続けることはできない、と聞いたのですが、本当ですか。

今まで家賃を払ってきた実績を考慮して、当社が「住む(借りる)権利」のようなモノはないのでしょうか?

当社としては、せめて来年の3月までこの物件を借りていたいと思っています。もちろん、賃料はきちんと支払う予定です。

Q2.保証金の返還はされるのですか

仮に、物件を借り続けることができない場合、保証金は戻ってくるのでしょうか。当社としては、保証金300万円を納め、退去するときには240万円の返金がある予定でしたが、競売によって所有権を得たBには、保証金の返還義務はない、ということを聞かされました。

Q3.原状回復をする必要はありますか

Bからは、「出て行く際に物件を元のスケルトンの状態に戻して欲しい」と要望されています。当社としては、「仮に保証金が戻ってこないのであれば、原状回復工事をせずに退去したい」と希望していますが、先方はそれを認めてくれません。

A1.原則として賃借権を主張できません

平成15年の民法改正もあり、抵当権が設定された後に当該物件を借り入れた賃借人(=御社)は、全ての抵当権者及び抵当権を目的とする権利を有する者(所有者等)の同意とその旨の登記がない限り、抵当権実行後の所有者に対して、その賃借権を対向することはできません(民法387条)。

したがって、賃借人は、出て行かなければならなくなります。

もっとも、新所有者は、旧来の賃借人に対して、常に「極端な話、来週出て行ってくれ」と主張できるわけではありません。

民法390条に次の規定があるためです。

「競売手続の開始前から使用又は収益をする者」は、「その建物の競売における買受け人の買受けのときから6ヶ月を経過するまでは、その建物を買受け人に引渡すことを要しない。」

よって、新所有者の買受け時が平成26年4月であれば同年10月まで、御社は、賃料相当のお金を、きちんと新所有者に支払いさえすれば、賃借物件を明渡す必要はありません。なお、賃料相当金を支払わない場合は、すぐに出て行かなければならなくなります(民法395条2項)。

6ヶ月が経過した以降は、(賃料を払っていたとしても)「出て行け」といわれれば、出て行く必要があります。継続して同物件の賃借を希望される場合は、新たに、新所有者との間で、賃貸借契約を締結する必要があります。以前は、短期賃貸借を保護する規定がありましたが、脱法的行為に用いられることが多いなど弊害が大きく、諸々の経緯により、平成15年に同規定は無くなりました。したがって、新所有者と新たに賃貸借契約を締結しなければ、御社が、来年3月まで賃借し続けることはできません。

ところで、新所有者は、自力で御社を追い出すことができるわけではなく、裁判所の執行手続を経る必要があります。執行手続の申立から、実際の執行まで、ある程度、間が空くのが通常ですし、申立費用は、明渡し費用も含めると、決して小さくはありません。ですので、占有者(この場合は、御社)が、任意に明渡してくれるケースであれば、わざわざ執行手続を踏まないのが一般的です。

なお、申立の際の申立費用や明渡し費用は、一旦、申立人が立替しますが、最終的には、占有者に求償できます。そのため、6ヶ月の猶予期間経過後、必要以上に粘ると、御社に思わぬ経済的負担がかかることになります。

新所有者との賃貸借契約の締結が難しいようであれば、適当なところで、明け渡してしまった方が無難かと思われます。

A2.新所有者に対して保証金の返還請求はできない

賃借人は、建物明渡し後、賃貸人(たる所有者)に対して、保証金返還特約に基づき、差し入れた保証金(の一部)を返還請求できるのが一般ですが、競売手続によって賃借物件が売却された場合、新所有者は、旧所有者の賃貸人たる地位を承継いたしません。

したがって、残念ながら、ご相談の事例の場合、新所有者に対して、保証金の返還請求を行使することはできないことになります。

A3.スケルトンの状態に戻す必要性については大いに疑問

本来であれば、御社は、スケルトンの状態で借りていた物件を、もとのスケルトンの状態に戻した上で、賃貸人に返却する義務を負っています。これは、賃借人が、賃貸人に対して、「原状回復義務」(民法616条、598条参照)を負っているからです。

しかしながら、御社(=賃借人)が「原状回復義務」を負っているのは、前所有者(=賃貸人)に対してであり、新所有者に対してではありません。このことは、御社が、新所有者に対して、保証金返還請求権を主張できないのと同じ理屈です。

すなわち、前述した通り、御社(=賃借人)が、新所有者に対して、保証金返還請求権を主張できないのは、新所有者が、前所有者(=賃貸人)の、賃貸人たる地位を承継しないからであり、このこととパラレルに解するのであれば、御社は、新所有者に対しては、「原状回復義務」を負っていないことになります。(※「明渡し義務」と「原状回復義務」とはまた別です)

実質的にみても、保証金が戻ってこないにもかかわらず、原状回復義務だけ果たさなければならない、というのは、当職としても、大いに疑問です。

私見になりますが、御社としては、「机・黒板など、御社が引越し先でも使う備品を持ち出せば、それで十分(鍵は要返却)」だと存じます。

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