事例・コラム
誤想防衛とは
はじめに
正当防衛というのは、「急迫不正の侵害に対して自己または他人の権利を防衛するため、やむを得ずした行為」(刑法36条)をいいます。従って、『急迫不正の侵害』がないにもかかわらず、防衛行為に出た場合に正当防衛は成立しません。
しかし、人間誰しも完璧ではありませんから、急迫不正の侵害がないにもかかわらず、これをあると勘違いして、その身を守るために悪気なく行為に出てしまうこともなくはないでしょう。
このように正当防衛が成立する状態でないのに、そのような状態であると誤信して防衛行為に出てしまった場合を誤想防衛といいます。
誤想防衛はいかなる錯誤か?
Case1
夜道で突然男が目の前に現れて、ポケットからナイフのような物を取り出して向かってくるような素振りを見せたため、「切り付けられる!」と勘違いした女性が、自分を守るため、咄嗟に男に向かってスマホを投げつけて顔に怪我をさせたとします。ところが、実は男は喧嘩中の彼氏で、仲直りをしようとサプライズでプレゼントを渡そうとしていただけだった…というような話もなくはないでしょう。
誤想防衛をした者に正当防衛は成立しません。また、夜道とはいえ街灯などで相手の顔や手元がハッキリと認識できるような状態であったとすれば、注意すれば男が暴漢ではないと気づけたはずだとして、過失致傷罪(刑法209条1項)が成立するでしょう。
しかし、彼女を通常の傷害犯(刑法204条)と同じように処罰するという結論には違和感があります。確かに彼女は相手にぶつけるつもりでスマホを投げているとはいえ、暴漢と勘違いしなければ、そんな行為には及ぶ筈なかったのですから。