◆ 安易な「相談者(依頼者)の特定」の放棄は、弁護士理念に馴染まない

(※ 現在、無料法律相談を実施しておりません)

無料法律相談のページ上では、

「電話・メールでの回答には限度があるため、完全に法的に正しいということは保証ができません。回答を元に、ご自身で対応等される場合は、全て自己責任となりますので、十分注意していただくようお願い申し上げます。」

と明記させていただいていること、あるいは、報酬を頂かないという業務の趣旨ないし性質からして、相談者(依頼者)を特定しない方法を採用することは、弁護士職務基本規程の射程外と解する余地もあろうかと存じます。

しかしながら、無料法律相談といえども、当職としても「弁護士」と標榜し、かつ、相談者としても弁護士資格を信頼して相談・回答を行っているのですから、弁護士職務基本規程の範囲外と安易に解することは、「社会正義の実現」という同規程ないし弁護士法の理念を没却しかねません。弁護士職務基本規程ないし弁護士法の理念に照らせば、無料法律相談といえども、回答を悪用されるケースを未然に防ぐための最低の措置を講じるべきだと思われます。

相談してこられる方に対し、回答に先立ち相談者情報の開示を求めてさせていただいているのは、回答の結果如何に関わらず、当職との最低限の信頼関係に基づいた理性的な対応を促すものと捉えていただいて構いません。

匿名や秘匿相談に含まれる不当事件を誘引・誘発する危険性に着目すると、氏名、所在地、電話番号等の相談者情報は、やはり、無料法律相談においても基本的にはご開示いただかねばならない、というのが、率直な私の考えであり、職務姿勢でもあります。

◆ 利益相反等の判断には相談者情報の開示が重要

ところで、弁護士は、弁護士法25条や弁護士職務基本規程27条等により、職務を行い得ない事件が存在します。

(参考)弁護士法25条(職務を行い得ない事件)
第二十五条  弁護士は、次に掲げる事件については、その職務を行つてはならない。ただし、第三号及び第九号に掲げる事件については、受任している事件の依頼者が同意した場合は、この限りでない。

  • 一 相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件
  • 二 相手方の協議を受けた事件で、その協議の程度及び方法が信頼関係に基づくと認められるもの
  • 三 受任している事件の相手方からの依頼による他の事件
  • 四 公務員として職務上取り扱つた事件
  • 五 仲裁手続きにより仲裁人として取り扱つた事件
  • 六 第三十条の二第一項に規定する法人の社員又は使用人である弁護士としてその業務に従事していた期間内に、その法人が相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件であつて、自らこれに関与したもの
  • 七 第三十条の二第一項に規定する法人の社員又は使用人である弁護士としてその業務に従事していた期間内に、その法人が相手方の協議を受けた事件で、その協議の程度及び方法が信頼関係に基づくと認められるものであつて、自らこれに関与したもの
  • 八 第三十条の二第一項に規定する法人の社員又は使用人である場合に、その法人が相手方から受任している事件
  • 九 第三十条の二第一項に規定する法人の社員又は使用人である場合に、その法人が受任している事件(当該弁護士が自ら関与しているものに限る。)の相手方からの依頼による他の事件

それぞれの文言の詳しい解説はここでは割愛します。

平易に説明すると、同法1ないし3号の規程により、弁護士は、事件の相手方からの依頼や相談に対して、極めて慎重かつ敏感に対応しなければならない、ということです。

匿名や秘匿相談の場合、当職として、利益相反等の判断が、著しく遅れることになります。

利益相反等の防止は、他ならぬ相談者(依頼者)の利益保護の意味合いも含まれています。無料法律相談において、相談者の方の情報開示を求めることは、②当職における利益相反等を判断する必要性という、相談者の方の利益を保護することにも繋がっているのです。

次回に続きます