◆ 「依頼者からの自由と独立」が、職務上が要請されている

前回に述べた「基本的人権の擁護」と「社会正義の実現」を果たすために、弁護士職務基本規程では、同第2条において、「弁護士は、職務の自由と独立を重んじる。」と規定されています。

ここにいう自由と独立は、

  • ・権力からの自由と独立
  • ・依頼者からの自由と独立
  • ・他の弁護士との関係からの自由と独立

の3つの要素を含みます(「解説 弁護士職務基本規程」第2版)。

本コラムで注目していただきたいのは、「2.」の点、すなわち、「依頼者からの自由と独立」です。

弁護士職務基本規程20条は、上記「2.」の点に関連し、

「弁護士は、事件の受任及び処理に当たり、自由かつ独立の立場を保持するように努める。」

と規定しております。

要するに、弁護士が、依頼者からの相談や受任依頼を受諾するかどうかは、自由であるのが原則であり、しかも、そのように振る舞うことが、職務上、要請されております

◆ 依頼や受任には「高度な信頼関係」が必要不可欠

民間の業界では、「受諾の自由」は、ある意味当たり前のことです。

ただ、隣接士業である、司法書士や行政書士に依頼の応諾義務が課せられておりますし(司法書士法21条、行政書士法11条)、「受諾の自由」が、単に許容されているに止まらず、職務上積極的に要請されていることからすると、弁護士の立場は、かなり毛色が違うことが分かります。

匿名や秘匿相談に関する私の考えを申し上げるための、重要な出発点ですので、同規程20条の趣旨について、以下、「解説 弁護士職務基本規程」第2版39頁の記載の主な部分を引用させていただきます。

「 ・・・弁護士は依頼者が少なくとも自分には真実を打ち明けて事件を依頼していると信じて職務を行い、依頼者の側においても弁護士の能力や人格を信じて自分のために最善を尽くしてくれると信じて依頼を行うものであって、両者には高度の信頼関係が必要である(下線・太字は筆者による、以下同じ)。
そのため、信頼関係を築けないおそれがあると弁護士が判断した場合には、弁護士は受任を断ることが出来るのであって、弁護士は、事件の受任義務を負わないとされている。業務の遂行に信頼関係を前提としない・・・『事件の処理』にあたっての弁護士の保持すべき自由かつ独立の立場とは、・・・プロフェッションとしての弁護士が依頼者と同体化し、隷属してはならないことを意味する。すなわち、弁護士は、・・・依頼者の恣意的要求をただそのまま受け容れ、これに盲従するのみであってはならない・・・弁護士は、職務上依頼者に誠実かつ忠実でなければならないが、拘束されるものではない。このような立場を貫くことは、弁護士が依頼者の正当な利益を実現するための前提である。」

このように、弁護士が具体的な職務を遂行するにあたっては、「特定の個人」との間の「高度な信頼関係」が必要不可欠であるといっても、過言ではありません。

次回に続きます